ゾディアック事件：未だ捕まらぬ真犯人、プロファイリングが導く驚愕の新説

1960年代後半から1970年代初頭にかけて、アメリカ・カリフォルニア州を震撼させた連続殺人事件「ゾディアック事件」。犯人は「ゾディアック」と名乗り、犯行声明文や暗号文を新聞社に送りつけるなど、劇場型の犯行で世間を騒がせた。その挑戦的かつ不遜な態度は、現代のシリアルキラー像の形成に大きな影響を与えたと言える。警察の捜査も虚しく、現在に至るまで犯人は特定されておらず、未解決事件として歴史に刻まれている。本記事では、この「ゾディアック事件」の概要、暗号の解読、主要な容疑者について解説し、さらに、プロファイリングの視点から真犯人像に迫る。最後に辿り着いた、アーサー・リー・アレンを主軸とする新説は、事件の真相に新たな光を当てるものである。

1. ゾディアック事件の概要：戦慄の連続殺人

ゾディアック事件は、1968年12月20日にカリフォルニア州ベニシアで若いカップルが射殺された事件から始まる。その後、1969年7月4日には、ヴァレーホで同様の手口でカップルが襲撃され、女性は死亡、男性は重傷を負った。この事件の約1時間後、ヴァレーホ警察署に電話がかかってくる。電話の主は、自分がこの2件の犯人であると告げ、さらに過去の殺人についても自供した。これが「ゾディアック」と名乗る犯人による最初の犯行声明であった。

その後もゾディアックは犯行を重ね、そのたびに新聞社に手紙を送りつけた。手紙には犯行の詳細や、警察への挑発的なメッセージが記されていた。さらに、ゾディアックは暗号文を送りつけ、その解読を要求した。暗号文には、自分の身元や犯行動機に関する情報が含まれていると主張した。

ゾディアックによる犯行は、1969年10月11日にサンフランシスコでタクシー運転手が射殺された事件が最後とされている。警察は、ゾディアックによる犯行を5件（7人被害、内2人重症）と断定しているが、ゾディアック自身は37人を殺害したと主張している。

犯行の特徴

• 若者のカップルを狙った襲撃: ゾディアックの初期の犯行は、主に若者のカップルをターゲットにしていた。
• 銃撃と刺傷: 犯行には、銃器と刃物の両方が使用された。
• 劇場型の犯行声明: ゾディアックは犯行後に新聞社に手紙を送り、犯行の詳細や警察への挑発的なメッセージを記していた。
• 暗号文の送付: ゾディアックは暗号文を新聞社に送り、その解読を要求した。暗号文には自分の身元や犯行動機に関する情報が含まれていると主張した。
• 「ゾディアック」のシンボル: ゾディアックは手紙の中で、円の中に十字が描かれたシンボルを自分のシンボルとして使用していた。

主な犯行

ゾディアックの犯行とされる主な事件は以下の通りである。

• 1968年12月20日： カリフォルニア州ベニシア、レイク・ハーマン・ロードで、デート中の若いカップル、デイビッド・ファラデーとベティ・ルー・ジェンセンが射殺される。
• 1969年7月4日： カリフォルニア州ヴァレーホのブルーロック・スプリングス・パークで、ダーリーン・フェリンとマイケル・マジョーが銃撃され、ダーリーンは死亡、マイケルは重傷を負う。事件後、ヴァレーホ警察に何者かから電話があり、自分が犯人であると名乗る。
• 1969年8月: 複数の新聞社に、犯行声明と暗号文が記載された手紙が届く。この手紙で初めて「ゾディアック」を名乗る。
• 1969年9月27日： カリフォルニア州ナパ郡、レイク・ベリエッサで、ブライアン・ハートネルとセシリア・シェパードが襲撃され、セシリアは死亡、ブライアンは重傷を負う。この事件では、犯人は黒い頭巾を被り、胸にはゾディアックのシンボルマークが描かれていたと証言されている。
• 1969年10月11日： サンフランシスコ市内でタクシー運転手のポール・スタインが射殺される。犯人はスタインの血染めのシャツの一部を切り取り、新聞社に送りつけている。

その後もゾディアックを名乗る人物からの手紙が送り続けられ、犯行をほのめかす内容や警察への挑発的なメッセージが記されていた。

2. 暗号の解読：408暗号と340暗号

ゾディアックは、新聞社に送りつけた手紙の中で、複数の暗号文を使用していた。その中でも有名なのが「408暗号」と「340暗号」である。

408暗号

1969年8月、ゾディアックは、サンフランシスコ・クロニクル紙、サンフランシスコ・エグザミナー紙、ヴァレーホ・タイムズ・ヘラルド紙の3社に、それぞれ分割された暗号文を送付した。合計408文字からなるこの暗号は、各紙の紙面に掲載された。ゾディアックは、この暗号文を解読できれば、自分の身元が明らかになると主張した。

この暗号は一見したところランダムな記号の羅列にしか見えなかった。しかし、わずか1週間後、カリフォルニア州の高校教師ドナルド・ハーデンとその妻ベティ・ハーデンによって解読された。この暗号は単純な換字式暗号であり、アルファベットの各文字が別の記号に置き換えられていた。

解読された408暗号の内容は以下の通りである（一部抜粋、意訳）。

私は人間を殺すのが好きだ。森の中で野生動物を狩るよりも楽しい。人間は最も危険な動物だからだ。（中略）私の身元を明かすことはできない。私が死後、楽園で奴隷として使役するための人間を集めるのを邪魔するからだ。

この暗号文からは、ゾディアックの異常な殺人嗜好と、自己顕示欲の強さが窺える。しかし、この暗号文にゾディアックの身元を特定できるような具体的な情報は含まれていなかった。

340暗号

1969年11月、ゾディアックは再び暗号文をサンフランシスコ・クロニクル紙に送付した。この暗号文は340文字で構成されており、「340暗号」と呼ばれている。

408暗号とは異なり、340暗号は非常に複雑な暗号であった。専門家でさえ解読することができず、長い間未解読のままだった。しかし、事件から51年後の2020年12月、アメリカ、オーストラリア、ベルギーの3人のアマチュア暗号解読者によって、ついに解読された。

解読された340暗号の内容は以下の通りである（一部抜粋、意訳）。

私を捕まえようとする諸君が楽しんでくれていることを願う。（中略）私はガス室を恐れていない。なぜなら、私をより早く楽園に送ってくれるからだ。今や私には、私のために働く奴隷が十分にいる。

340暗号もまた、ゾディアックの殺人嗜好と、警察への挑発的な態度を示すものであった。しかし、この暗号文にも、ゾディアックの身元を特定できるような具体的な情報は含まれていなかった。

3. 主要な容疑者：有力候補から新たな容疑者まで

ゾディアック事件の捜査では、これまでに多くの容疑者が浮上してきた。ここでは、その中でも特に有力視された人物や、近年新たに注目されている人物を紹介する。

アーサー・リー・アレン (Arthur Leigh Allen)

アーサー・リー・アレンは、ゾディアック事件の捜査において、最も有力な容疑者の一人とされた人物である。アレンは前科があり、ゾディアックの犯行声明文と酷似した文章を書いていたことが判明している。また、ゾディアックが使用していたものと同じタイプのタイプライターを所有していたことも確認されている。

さらに、アレンはゾディアック事件の被害者の一人、ダーリーン・フェリンと面識があった可能性も指摘されている。

しかし、アレンの指紋やDNAは、ゾディアックが残した証拠とは一致しなかった。また、アレンにはアリバイがあることも判明している。

アレンは1992年に心臓発作で死亡した。決定的な証拠がないため、アレンがゾディアックであったかどうかは、現在でも議論の的となっている。

リック・マーシャル (Richard Marshall)

リック・マーシャルは、ゾディアック事件の捜査において、もう一人の有力な容疑者とされた人物である。マーシャルは映写技師であり、ゾディアックが送りつけた手紙に書かれていた映画のタイトルについて、詳しい知識を持っていたことが判明している。

また、マーシャルの筆跡は、ゾディアックの筆跡と酷似しているという指摘もある。さらに、マーシャルはゾディアック事件の現場付近に住んでいたことも確認されている。

しかし、マーシャルにはアリバイがあり、彼をゾディアックと断定する証拠は見つからなかった。

ローレンス・ケイン (Lawrence Kane)

ローレンス・ケイン（別名：ローレンス・ケイ）は、ゾディアック事件の捜査において、近年注目されている容疑者の一人である。ケインは前科があり、ゾディアック事件の被害者の一人であるダーリーン・フェリンと面識があった可能性が指摘されている。

また、ケインは海軍で暗号解読の訓練を受けており、暗号に関する知識を持っていたことも判明している。さらに、ケインの顔写真は、ゾディアックの目撃証言に基づくモンタージュ写真と酷似しているという指摘もある。

しかし、ケインをゾディアックと断定する決定的な証拠は、現在のところ見つかっていない。

ジャック・タランス (Jack Tarrance)

ジャック・タランスは、デニス・カウフマンの継父である。カウフマンは、タランスの遺品から、ゾディアック事件への関与を示唆する証拠（ナイフ、血のついた服、ゾディアックのシンボルが書かれた頭巾など）を発見したと主張している。また、タランスの筆跡はゾディアックの筆跡と似ているという鑑定結果も出ている。

しかし、これらの証拠の信憑性には疑問が残る。カウフマンの証言以外にタランスをゾディアックと結び付ける具体的な証拠は乏しい。

アール・ヴァン・ベスト・ジュニア (Earl Van Best Jr.)

アール・ヴァン・ベスト・ジュニアは、息子のゲイリー・F・スチュワートによって、ゾディアックであると告発された人物である。スチュワートは、著書『The Most Dangerous Animal of All』の中で、父親がゾディアックであるとする様々な証拠を提示している。

スチュワートの主張によると、父親の筆跡はゾディアックの筆跡と酷似しており、父親の顔写真はゾディアックの目撃証言に基づくモンタージュ写真とも一致するという。また、父親はゾディアック事件の現場付近に住んでいたことも確認されている。

しかし、スチュワートの主張には矛盾点や疑問点も多く、父親がゾディアックであると断定することはできない。

エドワード・エドワーズ（Edward Edwards）

エドワード・エドワーズは、全米で複数の女性を殺害した連続殺人犯であり、その犯行歴や自伝の内容から、ゾディアック事件への関与が疑われた人物である。場所を転々としながら犯行を重ね、ゾディアックが犯行声明を送付した時期と場所が一致する点や、自伝の「Metamorphosis of a Criminal」が、ゾディアックの手紙との類似性があるとされる。

しかし、エドワーズは多くの犯行を自白している一方で、ゾディアック事件への関与は否定し続けていた。さらに2011年に獄中で病死しており、これ以上の調査は困難である。

デニス・レイダー（Dennis Rader）

デニス・レイダーは、別の有名な連続殺人犯であり、自らを「BTK」と称していた。彼は複数の女性を殺害し、警察に挑発的な手紙を送るなど、ゾディアックと類似した行動を取っていた。しかし、彼の犯行時期や場所はゾディアック事件とは一致せず、関連性は低いと考えられている。

ゲイリー・フランシス・ポステ (Gary Francis Poste)

ゲイリー・フランシス・ポステは、2021年に未解決事件調査チーム「ケースブレイカーズ」によって、新たにゾディアック事件の真犯人として名指しされた人物である。ケースブレイカーズは、元FBI捜査官やジャーナリストなど、40名以上の専門家で構成されるチームであり、独自の調査によってポステが犯人であると結論づけた。

ポステは空軍退役軍人であり、カリフォルニア州で塗装業を営んでいた。2018年に80歳で死去している。ケースブレイカーズは、ポステをゾディアックと特定するに至った証拠として、以下の点を挙げている。

• 額の傷跡: 目撃証言に基づくゾディアックの似顔絵には、額に特徴的な傷跡が描かれている。ポステの額にも同様の傷跡があり、これが一致するという。
• 暗号解読: ケースブレイカーズは、ゾディアックが送った暗号文の中に、ポステのフルネームをアナグラム（文字の並べ替え）で示す箇所があると主張している。
• 物的証拠: ケースブレイカーズは、ポステの自宅から、ゾディアック事件との関連性を示す可能性のある物的証拠を発見したと主張している。しかし、具体的な証拠の内容は明らかにされていない。
• 別の殺人事件への関与: ケースブレイカーズは、ポステが1966年にカリフォルニア州リバーサイドで発生した、シェリ・ジョー・ベイツ殺害事件の犯人でもあると主張している。この事件はゾディアック事件と類似点があるとされている。

ケースブレイカーズの主張はメディアで大きく取り上げられ、大きな注目を集めた。しかし、その一方で懐疑的な意見も多く存在する。

まず、額の傷跡については、多くの人が何らかの傷跡を持っている可能性があり、決定的な証拠とは言い難い。また、暗号解読についても、アナグラムはこじつけである可能性が指摘されている。さらに、物的証拠の内容が明らかにされていないことも、信憑性に疑問を投げかけている。

ゾディアックは高い知能を持ち、自己顕示欲が強く、支配欲の強い人物であると推定される（後述）。一方、ポステは空軍退役軍人ではあるものの、特に知能が高いという記録はなく、自己顕示欲の強さを示すようなエピソードも知られていない。

また、ポステがゾディアックであるとすれば、なぜ彼は犯行を途中で止めたのか、その理由が不明である。ゾディアックは犯行をエスカレートさせていたにもかかわらず、1969年10月の事件以降、突如として姿を消した。ポステが犯人であれば、彼が犯行を止めるに至った明確な動機やきっかけが必要となる。

さらに、ケースブレイカーズが主張するシェリ・ジョー・ベイツ殺害事件との関連性についても疑問が残る。この事件はゾディアック事件とは犯行の手口が異なっており、同一犯による犯行と断定することはできない。

リチャード・ガイコウスキー (Richard Gaikowski)

リチャード・ガイコウスキーはジャーナリストであり、ゾディアック事件当時、サンフランシスコ・クロニクル紙のライバル紙であった「グッドタイムズ」紙で働いていた。ガイコウスキーはゾディアック事件の報道に深く関わっており、ゾディアックから手紙を受け取ったこともあった。

ガイコウスキーが容疑者として浮上した理由は以下の通りである。

• 頭文字の一致: ゾディアックが使用したとされる暗号名”GYKE”は、ガイコウスキーの名字”Gaikowski”と、名前”Richard”の頭文字から構成されているという主張がある。
• 声紋分析: ガイコウスキーの声と、ゾディアック事件の際に警察に電話をかけてきた男の声が、声紋分析によって一致したという主張がある。しかし、この分析結果は専門家によって疑問視されている。
• 写真の類似性: ガイコウスキーの写真と、ゾディアックの目撃証言に基づくモンタージュ写真が、類似しているという指摘がある。
• ゾディアックとの接点: ガイコウスキーはゾディアック事件の報道に深く関わっており、ゾディアックから手紙を受け取ったこともあった。このことから、ガイコウスキーがゾディアックと何らかの接点を持っていた可能性が指摘されている。

しかし、ガイコウスキーをゾディアックと断定する決定的な証拠は見つかっていない。彼自身もゾディアック事件への関与を強く否定している。

4. 考察：プロファイリングが導く、アーサー・リー・アレン主犯、ローレンス・ケイン共犯説

ここでは、ゾディアックの人物像を再構築し、真犯人像に迫る。

まず注目すべきは、ゾディアックが犯行声明文や暗号文を送りつけたメディアの選択である。サンフランシスコ・クロニクル、サンフランシスコ・エグザミナー、ヴァレーホ・タイムズ・ヘラルドといった、主にベイエリアで広く読まれている新聞を選んでいる。このことから、ゾディアックはベイエリアの地理に精通し、地域住民の反応を強く意識していたことが推察される。自身の犯行をセンセーショナルに報じさせ、社会に与える衝撃を最大化しようとする意図が見て取れる。

次に、犯行声明文や暗号文の内容と文体を分析する。ゾディアックは、自身の殺人を「人間狩り」と称し、被害者を「死後の世界の奴隷」と見なすなど、異常な殺人嗜好と選民意識を露わにしている。一方で、知的な遊戯を楽しむかのような、挑発的で自信に満ち溢れた態度も見て取れる。この矛盾した二面性はゾディアックの複雑な内面を物語っている。

さらに、暗号文の作成と解読の要求は、ゾディアックの知能の高さと自己顕示欲の強さを示している。 彼は単純な換字式暗号だけでなく、解読困難な複雑な暗号も使用している。これは自身の知的能力を誇示し、警察や専門家に挑戦することで、優越感を得ようとする心理の表れと考えられる。

彼は当時の社会に対する強い不満や、怒りを抱えていた可能性が高い。暗号文や手紙の内容からは、社会に対する皮肉や、嘲笑とも取れる表現が散見される。彼は自身の存在を社会に誇示し、恐怖を与えることで、ある種の「復讐」を果たそうとしていたのではないだろうか。

また、犯行の手口から、彼は軍隊や警察など、何らかの組織に属していた経験を持つ可能性があると推測する。銃器の扱いに手慣れている点、そして、現場に指紋や毛髪などの証拠をほとんど残していない点は、彼が特殊な訓練を受けていたことを示唆している。

さらに、私はゾディアックが複数の人間による犯行、あるいは模倣犯を含む、複数犯による連続殺人事件であった可能性も否定できないと考えている。その根拠は犯行の手口や手紙の筆跡、そして、暗号文のスタイルに微妙な差異が見られる点にある。最初の数件の犯行は中心となる人物（例えば、アーサー・リー・アレンのような、強い殺意と自己顕示欲を持つ人物）によって実行され、その後、彼の「模倣犯」あるいは「共犯者」が現れたのではないだろうか。

この仮説を裏付ける証拠として、私は特にポール・スタイン殺害事件に注目している。この事件は他の事件と比べていくつかの異なる点がある。まず、被害者がタクシー運転手であり、それまでの被害者（若いカップル）とはターゲットの属性が異なる。また、この事件では、犯人は被害者の血染めのシャツの一部を切り取り、証拠として新聞社に送りつけている。これは他の事件には見られない行動であり、犯人がそれまでの「ゾディアック像」を意識的に演出しようとした可能性を示唆している。

さらに、スタイン事件の直後、警察は現場付近で不審な白人男性を目撃している。この目撃証言に基づく似顔絵は、それまでのゾディアックのイメージ（黒い頭巾を被った大柄な男）とは大きく異なっている。この似顔絵の人物こそが「第二のゾディアック」であり、スタイン事件以降のいくつかの犯行、あるいは手紙の送付に関与した模倣犯、あるいは共犯者であった可能性は十分に考えられる。

これらのことから、ゾディアックは高い知能と計画性を持ち、軍隊や警察などの組織に属した経験を持つ、社会に強い不満を抱えた人物であると推測する。そして、その人物を中心とした複数の人間が、この連続殺人事件に関与していた可能性が高いと考える。彼は自分の行為がメディアで大々的に報じられ、社会に恐怖と混乱をもたらすことに、歪んだ喜びを感じていたのだろう。

では、なぜゾディアックは突然犯行を止めたのか？ 1969年10月のポール・スタイン殺害事件以降、ゾディアックからの連絡は途絶えている（1974年に信憑性不明の手紙が数通送られているが）。この点についてはいくつかの可能性が考えられる。

1. 逮捕、または死亡説: ゾディアックが他の事件で逮捕されたか、何らかの理由で死亡した可能性。
2. 自己顕示欲の充足: 自身の目的を達成し、満足した可能性。
3. 恐怖による抑止: 警察の捜査が強化され、逮捕の危険を感じた可能性。
4. 精神状態の変化: 精神疾患の悪化などにより、犯行を続けることが困難になった可能性。

私の見解では、4の「精神状態の変化」が最も可能性が高いと考える。 ゾディアックの犯行は期間を追うごとにエスカレートしている。これは、彼の精神状態が不安定化し、より大きな刺激を求めるようになっていたことを示唆している。しかし、1969年10月の事件以降、犯行が途絶えたということは、何らかの理由で彼の精神状態が「安定」した、もしくは「別の状態」へと移行した可能性が高い。 例えば、統合失調症などの精神疾患を発症し、現実と妄想の区別がつかなくなった、あるいは、薬物療法などにより一時的に症状が抑えられたといったケースが考えられる。

以上のプロファイリングに基づき、容疑者たちを検証した結果、私はひとつの結論に至った。アーサー・リー・アレンが主犯であり、ローレンス・ケインが共犯、もしくは複数犯の一人であった可能性が最も高いと考える。

アーサー・リー・アレンは前科があり、ゾディアックの文章と酷似した文章を書き、犯行声明文で言及された映画に詳しかった。そして、ゾディアックのシンボルマーク入りの腕時計を所持していたという証言もある。さらに、地理的条件や自己顕示欲の高さなど、プロファイリングとも合致する点が多い。しかし、彼にはアリバイがあり、筆跡鑑定や指紋、DNA鑑定では決定的な証拠が得られなかった。

一方、ローレンス・ケインは、被害者と面識があった可能性、暗号に関する知識、モンタージュ写真との類似性など、状況証拠は揃っている。

ここで、アレンが「知能犯」として暗号作成や声明文の執筆を行い、ケインが実行犯として実際の殺害を担当したと仮定するとどうだろうか？ この説であれば、アレンのアリバイや、彼と決定的な証拠が結びつかなかったことも説明がつく。

この「アレン主犯、ケイン共犯説」は、今後の捜査において、重要な鍵となるだろう。 現代の進歩した科学捜査技術、特に遺伝子系譜学を用いた捜査手法によって、新たな証拠が発見されることに期待したい。

ゾディアック事件は未解決のまま、その不気味な存在感を放ち続けている。しかし、プロファイリングの視点から真犯人像に迫ることは可能である。そして、その「結論」は、これまで考えられてきた以上に複雑で闇深いものである可能性を、私は指摘しておきたい。真実の解明は容易ではない。しかし、我々は決して諦めてはならない。真実を追求し続けることこそが犠牲者への弔いであり、未来の犯罪抑止に繋がる唯一の道なのである。

5. 関連情報：書籍、映画、ウェブサイトなど

この事件についてさらに詳しく知りたい方は、以下の関連情報を参考にされたい。

• 書籍
  • 『ゾディアック』 ロバート・グレイ・スミス (著), イシイ シノブ (翻訳)
  • 『Zodiac Unmasked: The Identity of America’s Most Elusive Serial Killer Revealed』 Robert Graysmith
• 映画
  • 『ゾディアック』
• ウェブサイト
  • Zodiac Killer – Wikipedia
  • Zodiac Killer Facts

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※ 本記事は、現時点で公開されている情報に基づいて執筆されている。新たな情報が入り次第、随時更新する予定である。